日本株が1株単位で買えない制度的事情、会社法299条と紙の招集通知が壁に

2026.08.29

日本株が1株単位で買えない制度的事情、会社法299条と紙の招集通知が壁に

日本の株式市場における「1株単位」の売買が実現しない理由

日本の株式市場では、1株単位の売買が実現していない現状が続いている。その背景には、制度面における様々な理由が存在する。特に重要なのは、会社法299条に起因する招集通知の紙原則と、それに伴う事務コスト構造、および株主提案権の濫用防止という制度設計である。

株式売買単位の歴史と現状

日本の上場企業における株式売買単位は、2018年10月1日付けで全上場企業が100株に統一された。それ以前は、1株、10株、50株、100株、200株、500株、1,000株、2,000株といった多様な売買単位が混在していた。2007年11月には全国証券取引所が売買単位の統一に向けた行動計画を公表し、2014年4月には100株と1,000株の2種類に集約が進められた。

この過程で、特に2018年3月末時点では、東証上場会社の94.2%がすでに100株単位に移行済みである。これは、株式投資の透明性や利便性を向上させるための措置として評価されているが、1株単位の売買には至っていない。

株主提案権とその濫用防止

株主提案権の濫用防止は、単元株制度が存在する理由の一つである。株主提案権は、総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6か月前から保有する株主に認められている。もし単元を1株にする場合、300個・1%というハードルが実質的に大きく下がり、濫用的な株主提案の増加が懸念されている。

招集通知の事務コストと会社法299条

さらに重要なポイントは、会社法299条に関連する招集通知の扱いである。同条は、公開会社の場合、株主総会の招集通知を総会の2週間前までに株主へ通知しなければならないと規定している。通常、この通知は書面によるもので、電子的な通知に切り替えるには株主本人の個別の承諾が必要とされている。

そのため、株主数が多いと、招集通知や総会資料の印刷・封入・郵送にかかる事務コストが増加する。このコストを圧縮するためには、単元株数を大きく設定することで、名簿上の株主数を抑える必要がある。これが、1株単位の売買が実現しない理由として極めて重要な要素となっている。

株主総会資料の電子提供制度の導入

令和元年(2019年)の会社法改正により、「株主総会資料の電子提供制度」が創設された。2022年9月1日に施行されたこの制度では、上場会社の株主総会資料がウェブサイト上に掲載されることが可能となった。ただし、株主への通知書面自体は、株主が個別に電子提供を承諾しない限り、依然として紙で送付する必要がある。

株主名簿管理とそのコスト構造

加えて、株主名簿の作成・管理は、発行会社に代わって信託銀行などの「株主名簿管理人」が担っている。しかし、この証券代行業務の事務手数料は株主数や配当回数に応じた定額制が一般的であり、株主数が増えると発行会社のコスト負担が増す構造になっている。

株主優待制度と1株単位の関係

日本の企業は株主優待制度を設けており、単元(通常100株)を基準に優待内容を設定するケースが多い。しかし、株主優待自体が単元株制度を維持する理由ではない。最近、株主優待を廃止し、配当や自己株式取得に振り替える企業が増加している背景には、2022年の東証市場再編による基準緩和などがある。

株主優待文化の増減と単元株制度の存廃は別の力学で動いており、優待文化自体は1株単位への移行を妨げる障壁ではないことがわかる。

今後の展望と必要な改革

2024年10月から2025年2月にかけて、金融庁で「少額投資の在り方に関する勉強会」が開催される。この勉強会を通じて、投資単位が引き下げられる方向性も検討されている。具体的には、東証が上場企業に対して投資単位を10万円程度に引き下げるよう要請し、将来的には単元株制度の廃止、つまり「1単元=1株」とする方向性が示唆されている。

個人投資家へのアンケートでは、希望する最低投資額として「10万円以上20万円未満」が最も多く(約28.4%)、次いで「20万円以上30万円未満」(約23.4%)という結果が出ている。これらの結果からも、投資単位の引き下げに対する市場の期待が見て取れる。

しかし、このような動きが現実化するためには、会社法299条に関する招集通知の完全電子化や、株主名簿管理業務のコスト構造改革が前提条件となる。既存の制度が抱えるコストや手間を軽減し、透明性を損なうことなく株主提案権の十分な保護を図る必要がある。

まとめ

日本の株式市場が1株単位の株式売買に移行できない最大の要因は、会社法299条や事務コスト構造が複雑に絡み合っていることに起因する。この状況を打破するためには、招集通知の完全電子化や株主名簿管理コストの構造改革が不可欠であり、これらの施策が実現されることで、将来的には1株単位の売買が可能になる可能性が見えてくる。