NATOへの直接侵攻は当面見込み薄、ロシアが欧州で強めるハイブリッド攻撃の実態
2026.09.20
ロシアのNATO加盟国への直接侵攻の可能性
2026年9月現在、直接的な軍事侵攻の可能性についての評価は分かれているが、エストニアの対外情報機関は、ロシアが今後1年のうちにNATO加盟国に対して軍事攻撃を行う意図はないと示している。
バルト三国の情報評価によれば、現在のウクライナ戦争が続く間、ロシアは必要な兵員や装備が不足しており、バルト方面への軍事侵攻を成功させることは難しいとされている。
2026年8月には、米国の情報機関がロシアによる「限定的な侵攻」が起こる可能性を報じたが、バルト諸国の外交官は、通常戦力による差し迫った攻撃に関する情報は確認されていないと述べている。
フィンランドのスタブ大統領は、攻撃の意図を裏付ける証拠も事実も確認できていないと発言し、ラトビアのクルベルグス首相も脅威への備えと差し迫った脅威は異なると強調した。
ルーマニアのミルツァ国防相は、ロシアにはNATO加盟国を攻撃する意図はないと考えており、ポーランドのトゥスク首相は将来的なエスカレーションの兆候が見られると警告している。
民主主義防衛財団(FDD)のジョン・ハーディ氏は、ウクライナ戦争が続いている限り、ロシアの通常戦力による攻撃の可能性は低いと述べつつ、リスクが上昇していることも示唆している。
大西洋評議会は、バルト海方面への侵攻は可能性が低いと結論づけている。その理由として、バルト諸国の国境防衛が強化され、ロシアの兵員や装備が不足していることが挙げられている。特に、ラトビアとエストニアのロシア語系住民の分離主義的な動きが小さいことが影響している。
ただし、停戦が成立し、ロシアがウクライナでの兵員不足を解消することがあれば、脅威水準は大きく上がると指摘されている。
長期的には厳しい見通しが立たない。ドイツのヴァーデフール外相は、ロシアが2029年までにNATOと戦争を行う選択肢を自ら作りつつあると述べ、ピストリウス国防相も同様の見解を示している。
北欧・バルト諸国の情報機関の評価によると、ロシアが大規模な作戦能力を再建するのに要する期間は、従来の10年以上から短縮されているとされており、ウクライナでの戦闘が落ち着いた後の1〜2年程度としている。
さらに、ラトビア憲法保護局は、ロシアが今後、連邦予算支出の38〜41%を防衛関連に充てる計画があると評価している。エストニア、ラトビア、リトアニアは、GDP比の軍事費でNATO内でも上位に位置している。
ロシアによるハイブリッド攻撃の影響
ロシアによるハイブリッド攻撃は、最近数年で急増しており、その影響はヨーロッパ地域に深刻なものとなっている。2024年にはロシアの破壊工作が前年の約4倍に増加し、2025年にはさらに加速したと言われている。
のっけて、2025年4月にはノルウェーのダムへのサイバー攻撃が発生し、同年12月にはポーランドの約30のエネルギー施設が攻撃された。このようなサイバー攻撃は、主要エネルギーインフラに深刻な影響を及ぼす可能性がある。
また、2025年から2026年にかけては、ドローンや戦闘機によるNATO加盟国の領空侵犯が報告されている。ヨーロッパ各地では空港周辺でのドローン目撃が相次ぎ、多くの空港が閉鎖される事態に至った。
特に、英国では、2024年に126件、2025年に250件、2026年には8か月間で約340件と、ドローン事案が激増している。攻撃元は公式には特定されていないが、専門家はロシアやイランの関与を指摘している。
2026年9月にはルクセンブルクのフィンデル空港でもドローンの疑いのある活動が発生し、運航が停止した。また、ドイツでは空港へのドローン攻撃未遂があり、ドイツ政府はロシアの関与を示唆したが、ロシア側はこれを否定している。
デンマーク国防情報局によれば、ロシアの情報機関はSNSを通じて仲介者を募り、彼らが無意識のうちにロシアの指示で動くケースもあるという。ノルウェー警察保安庁は、エネルギー、通信、輸送インフラに対する監視・準備活動への懸念が強まっていることを表明している。
エストニアのツァフクナ外相は、ロシアによる破壊工作を「国家が支援するテロリズム」と称している。欧州の防衛当局者は、こうした低強度の攻撃に対する西側の抑止が機能していないとの見解を示しており、攻撃はNATOの集団防衛発動の閾値を下回るように設計されているとされる。
NATO軍事委員会のジュゼッペ・カーヴォ・ドラゴーネ議長は、同盟が「抑止とエスカレーション回避のバランスを取りつつ、強さのメッセージを送る」必要があると発言している。
北欧・バルト7か国の情報機関は、ロシアとの持続的な対立と継続的なハイブリッド圧力が常態であるとの共通見解を持っている。
両者の関係
ロシアがNATO加盟国に対する直接侵攻を避けつつ、ハイブリッド攻撃を通じて圧力をかける構図が浮かび上がっている。直接的な軍事攻撃の代わりに、サイバー攻撃や破壊工作を行うことで、NATOの結束を試す手段として機能している可能性がある。
このような状況下においては、NATO側も適切な抑止戦略を持ちつつ、ハイブリッド攻撃に対する防御力を強化する必要がある。ロシアが今後どのような行動を取るかは不透明であるが、現時点では短期的な侵攻の可能性は低いと見なされている。しかし、中長期的にはそのリスクが増加する可能性もあるため、引き続き注意が必要である。