ルーラ・コルテスとゼ・ラマルホ『Paêbirú』、大洪水が生んだブラジル最高額の幻盤
2026.08.04
ブラジルの幻のレコード『Paêbirú』
アルバム『Paêbirú』は、ブラジルのミュージシャン、ルーラ・コルテス(Lula Côrtes)とゼ・ラマルホ(Zé Ramalho)が1974年にペルナンブコ州レシフィで制作し、1975年に発表した作品である。その副題は「Caminho da Montanha do Sol」、つまりトゥピ語で「太陽の山への道」を意味する。この作品は、歴史的な背景と生まれた環境から、ブラジル史上でもっとも希少で高額なレコードの一つとなった。
制作の経緯
『Paêbirú』の制作は、ルーラ・コルテスとゼ・ラマルホが中心となり、ゼ・ダ・フラウタ(Zé da Flauta)もクレジットされている。その他にも、後にブラジルを代表するミュージシャンとなるジェラウド・アゼヴェード(Geraldo Azevedo)やアウセウ・ヴァレンサ(Alceu Valença)らも参加しており、多くの才能が集結した珠玉の作品となった。また、コンセプトはトゥピ族の神話上の存在「スメ(Sumé)」の伝説にインスパイアされたものであり、パライーバ州奥地にある「インガの石(Pedra do Ingá)」に刻まれた出所不明の岩絵をテーマにしている。
アルバムは2枚組LPで構成されており、収録内容は地・風・火・水の四大元素に対応する形で配置されている。ジャケット写真には、ルーラ・コルテスがインガの石を背景に撮影されたものが使われており、その神秘的な雰囲気を醸し出している。
大洪水と幻のレコード
『Paêbirú』のレコードは、レシフェ市内を流れるカピバリベ川(Capibaribe)のほとりに位置するレーベル・工場Rozenblitでプレスされた。しかし、1975年に起きた歴史的な大洪水が、このアルバムの運命を大きく変えた。この洪水によりカピバリベ川が氾濫し、Rozenblitのプレス工場が浸水したため、アルバムのプレス枚数は約1000〜1300枚であったとされる。そのうち700〜1000枚は洪水で失われたと伝えられている。
生き残ったのは約300枚のみであり、その多くはルーラ・コルテスが郊外の自宅に保管していたものであったため、難を逃れた結果となる。この歴史的な事故によって『Paêbirú』はブラジルでもっとも希少なレコードの一つとなり、現在ではその状態の良いものが英ポンドで4000ポンド前後の値がつくこともあるとされている。
再発とその後の影響
2005年にはドイツのレーベルShadoks Musicによって再発され、その後、英国のレーベルMr Bongoから高音質の2枚組LP・CDとしても再発されている。このように時を経て再び脚光を浴びることになった『Paêbirú』は、音楽的な価値だけでなく、その背後にある歴史的な背景からも重要視されるようになった。
ゼ・ラマルホはその後、ソロ・アーティストとしてブラジルで国民的な成功を収め、代表曲「Admirável Gado Novo」などで知られる存在となった。一方、ルーラ・コルテスは、音楽シーンから姿を消すこととなり、2013年に死去した。
まとめ
『Paêbirú』は、ルーラ・コルテスとゼ・ラマルホの手によって生み出されたアルバムであり、その制作には多くの才能が集結した。トゥピ族の神話やパライーバ州の伝説に触発されたコンセプトが斬新であり、アルバムの収録内容と共にその文化的価値を高めている。さらに、歴史的な大洪水によって希少価値が高まった結果、ブラジルの音楽史において特別な位置を占める存在となった。再発されたことで新しい世代にその魅力が伝わり、音楽愛好家にとっての重要な作品として認識され続けている。