リーマン・ショックの教訓は、次の金融危機を防げるか

2026.07.25

リーマン・ショックの教訓は、次の金融危機を防げるか

リーマン・ショックの反省から生まれた施策

2008年9月、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことが契機となり、世界的に金融規制改革が進められた。リーマン・ショックは、金融システムの脆弱性を露呈させ、各国の規制当局に対して新たな取り組みを促す結果となった。

米国では2010年7月に包括的な金融規制法「ドッド・フランク法」が制定された。この法律では、大規模金融機関への監視強化が求められると共に、金融システムの安定性を監視するための金融安定監督評議会(FSOC)が設置された。また、銀行が自己勘定でリスクの高い取引を行うことを制限する「ボルカー・ルール」も設けられた。デリバティブ取引の透明性向上や消費者金融保護局(CFPB)の設置も、この法令に盛り込まれている。

国際的な銀行自己資本規制である「バーゼルIII」は、2010年に大枠が公表された。これにより、普通株式等Tier1比率を4.5%に加え、資本保全バッファー2.5%を求めることになり、さらに状況に応じてカウンターシクリカルバッファーを0〜2.5%上乗せすることが求められた。Tier1比率は8.5〜11%、総自己資本比率は10.5〜13%とする規定が設けられている。

バーゼルIIIでは自己資本比率規制に加え、30日間のストレス下での資金流出に耐えられる高品質な流動資産の保有を求める「流動性カバレッジ比率(LCR)」規制や、中長期的な資金調達の安定性を求める「安定調達比率(NSFR)」規制も導入された。日本では、国際統一基準行や内部モデル採用行に対して、2024年3月31日までにこれらの流動性規制が適用され、その他の国内基準行や最終指定親会社には2025年3月31日に適用されることになっている。

今後起こり得る金融ショックの可能性:「プライベートクレジット」への警戒

銀行に対する規制が強化された結果、リスクの高い融資の一部は、銀行以外の主体であるノンバンク金融仲介機関(NDFI)が担う「プライベートクレジット」市場へと移行してきた。このプライベートクレジット市場は、2010年時点で563億ドルだったノンバンク金融機関向け融資の規模が、2026年時点で1兆4700億ドルを超える水準にまで拡大する見込みである。

2025年9月には、自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループと、サブプライム層向け自動車ローンを手がけるトリコロール・ホールディングスが、いずれもプライベートクレジットを主な資金調達手段としていた企業として相次いで経営破綻した。ファースト・ブランズについては、同一の担保資産を複数回にわたって借り入れの担保に使っていた疑いが指摘されており、UBSは同社向けエクスポージャーとして5億ドル超を、ジェフリーズ・グループは「疑わしい売掛債権」として7億1500万ドルを開示した。また、トリコロールに関連する損失も1億7000万ドルにのぼるとされている。

格付け会社フィッチ・レーティングスによれば、米プライベートクレジットのデフォルト率は2026年4月時点で過去最高となる6.0%を記録し、プライベートクレジットを主な資金源とする企業の2025年通期のデフォルト率は9.2%に達する見込みである。

2026年5月6日、金融安定理事会(FSB)は「プライベートクレジットの脆弱性に関する報告書」を公表し、(1)銀行との相互連関性、(2)借り手の信用力評価・資産評価の不透明さ、(3)資金の集中とその流動性のミスマッチ、(4)データの不足、という4つの脆弱性領域が指摘された。この指摘は、プライベートクレジット市場の動向が金融システム全体に与える影響を警告するものである。

米連邦預金保険公社(FDIC)も2026年版のリスクレビューで、ノンバンク金融仲介機関(NDFI)同士の相互連関性を主要なシステミックリスクの一つに位置付けている。特に景気後退局面でNDFIが追加担保(マージンコール)を求められる際、銀行から借りているコミットメントライン(融資枠)を一斉に引き出されることで、銀行が保有する担保の価値も同時に下落するという連鎖のシナリオが懸念されている。

以上のように、リーマン・ショックからの教訓を踏まえた規制強化の中で新たなリスクが生成されていることが示唆されている。プライベートクレジット市場の急成長は、金融システムの安定性に対して新たな脅威をもたらす可能性が高く、今後の動向には注意を払う必要がある。

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