ホルムズ海峡危機:石油メジャーが進めた脱・中東依存
2026.08.03
2026年の中東情勢と石油メジャー各社の事業戦略の変化
2026年に突入し、緊迫化した中東情勢が国際石油メジャーの事業戦略に大きな影響を与えている。特に米国とイスラエルのイランに対する軍事行動、そしてホルムズ海峡の危機が背景にある。
中東情勢の緊迫化
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する空爆作戦を開始した。この攻撃は、イランの最高指導者アリー・ハーメネイーの殺害に至るものであった。この行動は中東地域の緊張を一層高め、同年3月4日にはイラン軍がホルムズ海峡の「閉鎖」を宣言。これにより、海峡を通過する船舶への攻撃が始まり、カタールエナジーはラスラファンLNG基地への攻撃を受けて、全LNG出荷についてフォースマジュールを宣言した。この結果、世界のLNG供給の約20%が瞬時に失われ、供給に大きな影響を与えた。
その後、米国は3月19日にホルムズ海峡の航行再開を目的に、イラン国内の目標への空爆を開始し、4月13日には海上封鎖を実施。ホルムズ海峡は世界最大の原油チョークポイントであり、通常は日量2000万バレル以上が通過するため、事態の深刻さが顕著であった。また、船舶保険の引き受けが困難になり、保険料の高騰や船員の航行拒否が増加。2026年5月時点で1550隻の船舶と22500人の船員が航行できない状態が続いた。
石油メジャー各社への直接的な影響
こうした状況が石油メジャー各社に直接的な影響を及ぼすことになった。シェブロン社はイスラエル政府の指示により、2026年3月から地中海のリヴァイアサン・ガス田の操業を一時停止した。また、サウジアラビアとクウェートにまたがる中立地帯やCPChem関連資産でも減産が発生した。一方、エクソンモービルの株価は2026年年初来で24%上昇し、S&P500種の年初来10%上昇を大きく上回った。
保険市場の変化と非中東地域への資金シフト
中東が紛争地域となった2026年2月以降、上流向け保険は中東地域から事実上外され、保険市場に大きな変化が生じた。中東域外の上流原油プロジェクトに対する保険料は年初来で約25%低下し、一部案件では50%まで下落。これは保険会社が中東紛争の影響を受け、域外の案件に集中したためである。この結果、石油メジャー各社は地政学リスクの低い地域での探鉱・開発を加速させている。
具体的には、ガイアナ、ナミビア、ブラジル、ナイジェリア、ベネズエラ、トルコ、キプロスが新たな焦点となっている。エクソンモービルは南米ガイアナのスタブローク鉱区で日量100万バレル超の生産を目指し、その旗艦プログラムを展開。これは非OPEC産の深海油田としては世界最大級の成長資産とされる。
米国内での動向
米国内においても、パーミアン盆地での増産が顕著になっている。ダイヤモンドバック・エナジーは従来の資本規律方針を転換し、掘削リグやフラッキングクルーの増強を図っている。また、BPは2026年第1四半期の利益が前年同期の2倍以上となる32億ドルに達し、特筆すべき高水準を記録した。さらに、エニは同四半期の調整後純利益が15億ドルに達し、前年から若干の減少はあったものの石油・ガス生産量は9%増加。これらの成長は中東での混乱による影響を相殺するものであった。
シェル、トタルエナジーズ、エクソンモービルは国際的に分散した資産を70カ国以上で保有しており、中東依存を抑える事業構造を維持している。これにより、リスクヘッジを果たしつつ持続可能な成長を目指している。
今後の見通し
エクソンモービル、シェブロン、シェルは、紛争が終結しても原油価格は高止まりするリスクが高いと警告している。特に備蓄が大きく取り崩されているため、供給が紛争前の水準に戻るには時間がかかるとの見方が示されている。シェルは長期的に見て、世界人口の増加と新興国経済の成長により石油・天然ガスの需要は今後も増加するとの期待を寄せている。
日本の経済産業省は2026年度にエネルギー供給の安定化を図るため、石炭火力発電の稼働率を引き上げる方針を検討している。これはホルムズ海峡を経由して輸入しているLNGの約400万トンのうち、約160万トンを節約することを目指した施策である。
まとめ
2026年の中東情勢は、米国とイスラエルのイランに対する軍事行動やホルムズ海峡の危機が引き起こす新たなリスクの下で、国際石油メジャー各社の事業戦略に大きな転換を促した。地政学リスクの低い地域への資金シフトが進む中、石油メジャーは持続可能な成長のための新たな市場を模索している。今後の動向に注視する必要がある。