高温超伝導マグネット:核融合発電を小型化する切り札
2026.08.02
高温超伝導マグネットと核融合発電の関係
核融合発電は、クリーンで持続可能なエネルギー源として期待されている。しかし、その実現には多くの技術的課題が存在する。その中でも、高温超伝導(HTS)マグネットは、核融合炉のプラズマを効果的に閉じ込めるために重要な役割を果たす。この技術の進展は、核融合発電の実現に向けた大きな一歩となる。
高温超伝導マグネットの基礎
高温超伝導マグネットの中核材料であるREBCO(希土類バリウム銅酸化物)は、テープ状の線材として広く利用されている。これらの材料は、金属基板の上に薄い超伝導層を形成しており、従来の銅線などと比較すると脆く、曲げやねじれに対して弱いという課題がある。このため、実用化に向けたコイル形状への成形や大電流化が必要で、各国の研究機関や企業が取り組んでいる。
低温超伝導マグネットとの違い
国際熱核融合実験炉ITERでは、低温超伝導体であるニオブスズ(Nb3Sn)が採用されている。この材料は、4.2Kで20テスラを超える磁場を発生できるが、液体ヘリウムによる極低温(約4K)での冷却が必要である。一方、REBCOなどの高温超伝導体は、77K(液体窒素温度)でも超伝導状態を維持でき、実用的には20K前後での運転が可能である。この特性により、より高い磁場強度が達成できる。
トロイダル磁場を強化することがプラズマの閉じ込め性能を向上させるため、核融合炉の小型設計が可能になる。このため、REBCOを使用した高温超伝導マグネットの開発は、核融合発電の効率を向上させる鍵となる。
世界の開発競争
米国のコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)は、2021年9月に20Kで20テスラの磁場強度を達成し、当時の高温超伝導マグネットとして最高記録を達成した。このマグネットは、実証炉SPARCに設定される予定であり、核融合エネルギーが投入エネルギーを上回るQ>1の達成を2027年に目指している。
CFSは自社工場でマグネットの量産を行い、SPARCへの初号機マグネット設置に向けて進捗を報告している。また、NVIDIAとの提携も発表しており、これにより技術的な相乗効果が期待される。
日本のスタートアップ、ヘリカルフュージョンも注目される企業の一つである。2025年10月27日には、核融合炉の磁場環境を模した実験装置内で高温超伝導コイルに40キロアンペアの大電流を通電し、安定稼働を確認した。この実証は、絶縁体を使用しない「無絶縁型」の大型導体によるもので、世界初の試みであった。
さらに、ヘリカルフュージョンは2026年4月28日に、シリーズBラウンドで約27億円を調達し、設計中の最終実証装置「Helix HARUKA」の建設を進めている。2030年代中には統合実証と世界初の実用発電達成を目指している。
放射線耐性の向上に向けた研究
REBCO線材は、その脆さからコイル形状への成形が難しく、大電流化のための導体開発が課題とされている。この中で、東京都立大学による「ハイエントロピー型」REBCO材料の開発が進められている。この材料は、核融合炉内で生じる中性子やヘリウムイオンの照射を受けても臨界温度の低下をわずか1Kに抑える将来性を持つ。
放射線耐性の向上は、核融合炉の長寿命化や性能の安定に寄与する。これにより、高温超伝導マグネットの実用化が加速し、核融合発電の実現に向けた道が開けるだろう。
今後の展望
高温超伝導マグネットは、核融合発電の実現に向けた技術としての重要性が増している。これらのマグネットは、従来の低温超伝導体に比べて、効率的な冷却を可能にし、より高い磁場強度を実現することで、核融合炉の設計に革新をもたらす。
CFSやヘリカルフュージョンなどの企業が各国で開発競争を繰り広げる中、技術の進展は加速している。高温超伝導マグネットの実用化は、クリーンで持続可能なエネルギー源としての核融合発電の未来を形作る重要なステップとなるだろう。
これからの数年は、まさに核融合エネルギーの実用化に向けた重要な転換点となる。各国の開発者たちにとって、引き続き注目すべき時期となるだろう。