米中間選挙は11月3日投票、物価高・関税・イラン戦争が問う議会の主導権
2026.10.29
2026年11月3日、アメリカで中間選挙の投票が行われる。トランプ政権2期目の折り返しにあたる選挙で、議会の主導権がどちらの党に渡るかによって、関税、イランとの戦争、市場の見通しが変わってくる。この記事は投票前の10月29日時点の情報をもとに、争点と、結果ごとの展望を整理する。
選挙の基本:民主党は下院で3議席、上院で4議席
改選されるのは下院の全435議席、上院100議席のうち35議席(通常選挙33議席と、フロリダ州・オハイオ州の補欠選挙2議席)、そして36州の知事。登録有権者は約2億1000万人にのぼる。
現在の下院は共和党218、民主党214、共和党会派の無所属1、欠員2。過半数は218議席で、民主党は差し引き3議席を上積みすれば多数派を奪還できる。わずかな差であり、下院の主導権は少数の選挙区の結果で入れ替わりうる。
上院は共和党53、民主党会派47(民主党45と、民主党会派に属する無所属2)。民主党が多数派になるには差し引き4議席増が必要。50対50の場合は副大統領JDバンスが決定票を持つため、共和党が主導権を維持する。改選35議席のうち22議席は共和党が守る側で、民主党の13議席より多い。
歴史的には与党に不利な選挙である。1946年以降の中間選挙で、大統領の与党は下院で平均26.5議席を失ってきた。
上院の主な接戦州は、ジョージア(民主党現職オソフ対共和党コリンズ)、ミシガン(現職不在、民主党エルサイード対共和党ロジャース)、ニューハンプシャー(現職不在、民主党パパス対共和党スヌヌ)、メイン(共和党現職スーザン・コリンズ対民主党トロイ・ジャクソン)、ノースカロライナ(現職不在、民主党クーパー元知事対共和党ワトリー)。オハイオ、アラスカ、アイオワ、テキサスなども注目されている。
争点1:物価と生活費
最大の争点は経済。ピュー・リサーチ・センターの9月28日〜10月4日の調査では、登録有権者の84%が経済を投票において「非常に重要」と答えた。共和党候補の支持者で82%、民主党候補の支持者で88%と、支持政党による差はほとんどない。医療は68%、移民は59%で、経済とは差がある。
背景にあるのは物価の上昇。9月までの1年間で消費者物価は3.7%上がり、ガソリンは34%値上がりした。ガソリン・エネルギー価格を「非常に懸念している」人の割合は、1月の43%から10月には74%へと、1年足らずで30ポイント以上増えている。この値上がりの大きな要因が、後述するイランとの戦争と、それに伴う原油価格の上昇である。
争点2:関税、最高裁判決後も続く上乗せ
関税をめぐっては、この1年で法的な土台が大きく揺れた。連邦最高裁は2026年2月20日、国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断し、同法に基づく関税を違法とした。ただし、鉄鋼・アルミ・銅などにかかる通商拡大法232条の関税や、通商法301条の関税はこの判断の対象外で、維持された。
政権はすぐに代わりの手段を使った。通商法122条に基づく10%の一律関税の導入である。122条の関税は議会が延長しない限り150日間が上限。さらに5月7日には、国際貿易裁判所が2対1でこの関税も違法と判断し、政府は控訴した。結局、議会は延長を決めず、122条の関税は7月24日に失効した。
それでも関税はなくなっていない。政権は122条の失効に合わせて、通商法301条に基づく「強制労働」関税を60の国・地域からの輸入に課した。税率は国によって10%または12.5%。根拠となる法律を替えながら、一律に近い関税が続いている形である。
有権者の受け止めは厳しい。ロイター/イプソスの10月の調査では、82%が関税は生活費の上昇に寄与したと答えた。
争点3:開戦8か月のイランとの戦争
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランを攻撃し、戦争が始まった。開戦から約8か月。米中央軍は戦費を470億ドルと試算している。
戦争の影響は、エネルギー価格を通じて家計に直接届いている。ホルムズ海峡周辺では10月に船舶への攻撃件数が過去最多となり、保険料や運賃が大きく上昇した。10月27日時点で北海ブレント原油は1バレル113〜116ドル前後。UBSのアナリストは、年末まで110ドル前後が続くと予想している。ガソリン、暖房用燃料、軽油の値上がりはこの延長線上にある。
議会でも戦争は争点になっている。下院は大統領に戦闘の終結を求める戦争権限決議を2度可決した。1度目は6月3日、215対208の賛成多数で、共和党議員4人が賛成に回った。一方、上院は9月24日、追加攻撃を止める決議を49対50の1票差で否決している。決議に法的拘束力はなく象徴的な意味合いが強いが、上院では1票差という拮抗した状態にある。
その他の争点
このほか、医療費、移民、AIとデータセンター、政府の腐敗、人工妊娠中絶の権利、民主主義の状態なども争点に挙がっている。
世論調査と予測:下院は民主党優勢、上院は割れる
ピューの同じ調査では、議会選挙の投票先は民主党候補44%、共和党候補36%、その他5%、未定15%。男女別では、男性が42%対42%で互角なのに対し、女性は45%対31%で民主党が上回る。未定の15%がどちらに動くかが残る焦点である。
大統領への評価も与党には逆風。世論調査の平均(ポリウェーブ)では、トランプ大統領の支持率は39.4%、不支持は58.5%。
予測は、下院と上院で分かれている。選挙予測会社ディシジョン・デスクHQは、民主党が下院を奪還する確率を80%、上院を奪還する確率を57%とした。予測市場ポリマーケットでは下院93%、上院67%。一方で、上院は共和党が55%で優勢とする予測モデルもある。下院は民主党優勢でほぼ一致し、上院は見方が割れている状況である。
議席数の見通しでは、政治学者トッド・ベルトが民主党の約15議席増を予想する。ただし、共和党による選挙区割りの変更で、共和党が新たに9選挙区で有利になっているとも指摘している。
金融政策:FRBは据え置き、利上げ論も
経済の前提として、金融政策の状況も押さえておきたい。米連邦準備制度理事会(FRB)は10月28日、政策金利を3.75〜4.00%に据え置いた。採決は10対2で、反対した2人(クック理事、クリーブランド連銀のハマック総裁)はいずれも0.25%の利上げを主張した。インフレ率の高止まりが続いているためで、FRB内では利下げではなく利上げの議論が出ている。ウォーシュ議長は、中間選挙を前にしたこの判断に、政治は「まったく関係していない」と述べた。
結果別のシナリオ
シナリオ1:民主党が下院を奪還、上院は共和党が維持(ねじれ議会)
JPモルガンは、この場合は政策の膠着を予想する。予算や法案は両院を通らなければ成立しないため、政権の新たな立法は難しくなる。モルガン・スタンレーは、ねじれ議会でも大統領令や、下院が主導する公聴会・調査を通じて、市場に影響が出うるとしている。
過去のデータでは、共和党の大統領とねじれ議会の組み合わせの翌年、S&P500の平均上昇率は約23%で、組み合わせの中で最も高かった。
シナリオ2:民主党が上下両院を制する
南アフリカの金融メディア、マネーウェブ(サスフィン・ウェルス)は、この結果では投資家が規制や人事の見直しを織り込むため、市場の初期反応が最も大きくなりうると分析している。上院は閣僚や判事などの人事の承認権を持つため、上院の主導権が移れば人事にも影響が及ぶ。
過去、共和党の大統領と民主党多数の議会の組み合わせでは、選挙翌年のS&P500の平均上昇率は約15%だった。
シナリオ3:共和党が上下両院を維持
バンク・オブ・アメリカは、この場合、市場がAIへの設備投資やデータセンター拡大が続くというサインとして受け止めるとしている。現在の政権と議会の路線が、そのまま続く結果である。
どの結果でも変わりにくいこと
議会の構成がどうなっても、トランプ大統領は通商と外交で大きな権限を持ち続ける。マネーウェブは、そのため関税や外交をめぐる不確実性は残ると指摘する。実際、今年の関税は議会の議決ではなく、大統領が複数の法律を使い分けて課してきたものだった。
モルガン・スタンレーは、株式市場全体にとっては選挙結果よりも、インフレ、経済成長、企業業績の方が重要になる可能性が高いとしている。原油高とインフレ、そしてFRBの利上げ論という条件は、選挙の結果にかかわらず残る。
結果が出るまで
最初の投票所は米東部時間11月3日午後6時に締め切られる。ただし、郵便投票の集計に1週間以上かかる州もあり、最終結果の確定まで数日から数週間かかる可能性がある。ジョージア州の上院選は、過半数を得た候補がいなければ12月1日に決選投票となる。上院の主導権が1議席差で決まる場合、確定は12月までずれ込むこともありうる。新しい議員の就任は2027年1月3日である。